日本中國學會

The Sinological Society of Japan

『日本中国学会会報』2001年第1号

理事長就任の御挨拶
新理事長 興膳 宏

何の為の中国学か?ー理事長退任の御挨拶
前理事長 福井文雅

彙報


理事長就任の御挨拶

新理事長 興膳 宏

ご承知のように、日本中国学会は、創立五十周年を期に、学会の運営体制を大幅に改革することになりました。改革の趣旨は、会員がすでに2,000人を超えた現在の状況をふまえながら、できるだけ多くの会員の協力を得て、学会の活動を各会員が少しでも身近に感じられるような、活発なものにしていきたいというに尽きましょう。今年は、いよいよその改革元年です。この時期に理事長の重責をになうことになり、大きな緊張感を覚えます。
1949年に学会が誕生したとき、会員の数は246人でした。その年の大会参加者は約100人とされています。この五十年の間に会員数は八倍を超え、大会には毎回ほぼ600人前後の参加者を数えるようになりました。また、以前にはなかった現象として、最近では東アジア諸国からの留学生会員も、年を逐って増加しています。これは学会の繁栄を示す数字であり、慶賀に値することはいうまでもありません。

しかし、会員の増加が、他方で学会の運営を複雑で困難なものにしているのもまた事実です。学会の規模が巨大化した結果
として、会務が飛躍的に増えるとともに、学会の運営に当たる役員の負担も増加しました。またその反面
で、会務全般にわたる広く行きとどいた目配りができにくくなりました。大会の開催にしても、毎次500人以上の参加者を受け入れることのできる大学となれば、条件が著しく限られてきます。加えて、学会運営に関する会員の自覚も、決して積極的とはいえない状態でした。役員選挙の投票率の低さは、機会あるごとの呼びかけにもかかわらず、さしたる改善も見られないまま現在に至っています。
ただ、だからといって、会員に熱意が全く欠けているとはいいきれないと思います。というのも、学会費の納入率は平均して80パーセントを上回っており、また大会発表や『日本中国学会報』掲載論文の募集には、若い世代の会員を中心にいつも相当な数の応募者があるからです。大会参加者が常に会員の四分の一以上に及んでいることも、会員が研究成果
の交流の場を強く求めていることを示すものでしょう。選挙の投票率の低さは別として、多くの会員がこのような形態で学会活動への参加の意欲と、学会への期待を示しているといえるのかも知れません。
新しい体制では、理事長が評議員の互選によって選出され、理事長の委嘱によって、2名の副理事長と10名の理事が選ばれて理事会を構成します。各理事は規約で定められた六つの委員会の責任者となって、各委員会の運営に当たります。委員会は理事会の委嘱を受けた会員によって構成され(現在は40名余りの委員が委嘱されています)、大会開催、論文審査、出版、選挙管理、研究推進・国際交流、将来計画など、それぞれの任務を担当します。従来の体制とちがうのは、会務を委員会に分散させて、各委員会による任務の分担と権限を明確にしながら、委員会の意思を理事会が総合的に集約して学会の運営に責任を持つという、一種の責任内閣制のような体制になったことです。これほど大きな改革が断行されたのは創立以来はじめてのことで、多くの不安を抱えての出発になりますが、改革の趣旨が十分に生かされるよう努力したいと考えています。

年次大会の運営に関しては、昨年度の東京大学における大会で、意欲的な新機軸の試みがなされたことはご存じの通
りです。今年度の開催をお引き受けいただいた福岡大学でも、現在さまざまな角度から、より充実した大会を実現するための検討を加えていただいているところです。また、新しい構想の一つとして、学会ホームページの開設をできるだけ早い時期に実現したいと思っていますし、そのほかにも各委員会においてすでに具体的な検討を始めていただいている課題がいくつかあります。それらは検討の進展状況を見ながら、やがてお知らせすることになるはずです。
いずれにせよ、この改革を少しでも所期の理想に近づけるために努める所存であることを申し上げるとともに、会員各位
の積極的なご理解とご協力を心からお願いします。


何の為の中国学か?――理事長退任の御挨拶――

前理事長  福井 文雅

何故中国思想や中国文学を勉強もしくは研究しているのか?この質問に、会員ならば多くの人が「勿論、中国が好きだからさ。きまっているではないか」と答えるであろう。簡単に言えば、中国が好きだから、あるいは興味が有るから、である。

しかし、好きであるからと言って、その人が研究者に成れるわけではない。しかし、この区別
が日本人の間ではハッキリとは意識されていないように思える。正確に言えば、愛好者(アマチュアamateur)と研究者(プロpro)とでは区別
があるのであり、両者の間には出発点、立場上でも「心構え」の点で画然とした違いがある。また、なければならないはずである。
判りきったようなことを、今ここで事々しく問うたのは、最近の中国ブームにつれて多くの著述が現れ、アマとプロとの区別
が判然としなくなって来て、冒頭のような質問を改めて考えなければならないような機会が多いからである。

日本国内だけに暮らしている時には問題は起こらないであろう。しかし、日本を離れて海外で勉強したり、国際会議で欧米の中国学者等と討論しなければならないようになった今日では、この質問への日本人らしい、しかもプロとしての答えを用意しておかないと、答えに詰まり、立ち往生しかねない羽目に陥る(そう言う場に、度々私は直面
した)。
国際会議(日本国内でも開かれる)の場合では、中国人や欧米人のプロとは違う問題意識を持つか、問題解決への違った方法または資料を開陳するかして、つまりは、彼等とは違った日本人独自の意見、答えを述べなければならないのが、国際間の生き方である。
そうしなければ、その場の日本人は立つ瀬が無くなる。そこに居る必要が無い。
二十一世紀の日本の中国学者は、もっと切実にこの質問に直面することになるであろう。つまり、外国人に対することが多くなればなるほど、日本の中国学者は、日本人独自の、しかも借物ではない、自分自身の立場、意見を嫌でも述べなければならなくなるからである。
その設問に答える為には、幅の広い学識がどうしても必要になってくる。嫌でも勉強しなければならないテーマも増えて来よう。狭く「歴史研究」「哲学研究」などと分けて、自分だけの好みの(つまりアマチュアの)自己の専有領域を押しつける人がままあるが、どうやらそれは日本だけの現象のようである。そんな分け方をしていたのでは、うかうかしていると、外国人の行動力に太刀打ちできなくなるのではあるまいか。

引いては(問題を広く且つ突き詰めて行けば)、プロの世界では、益々「雑学」が必須になって来ている現実に当るように、私には思える。
楊聯陞教授は『史泉』誌25号の対談の中で自分を“八百屋”と称し、「中国学は、もともと、哲学あり、文学あり、史学ありで、八百屋になるのが当然です。」と公言している。
宮崎市定先生も『独歩吟』388頁で、「歴史学には本質的に雑学的なところがあり、もし雑学をしないで歴史家になろうとするのであれば、それはとんでもない不心得者と言うべきであろう。ただ雑学はどこまでも雑学に終わらず、あたかも碁打の布石が、最初のうちは相互の間に何の連絡もなさそうに見えて、最後に一局が終って見れば、全体が見事な大系に組織立てられているのを見習うべきである。」と言っておられる。
この「歴史学」での心得は二十一世紀の中国学にも通じる言葉に違いない。

追記 一昨年、本学会は創立50周年記念大会を早稲田大学大隈大講堂で開催することができました。長年にわたる諸先輩の努力のお蔭です。現在の会員数は海外会員を含めて二千数百人にものぼり、ほぼ日本印度学仏教学会に匹敵する大きな学会に成長しました。私が大学院学生で入会した昔を想いかえしますと、二千人も会員が増加しています。
外国籍の会員も増えました。発会当時には想像もできなかったことです。台湾籍の会員を認めるべきかどうか?など、激論を交した役員会の日のことを、遙か昔の風景として思い出します。本学会の他に、(財)東方学会、日本印度学仏教学会、仏教思想学会、日本道教学会等にも同時に私は理事として参加し、現在も係わっております関係上、それぞれを比較して、次第に日本中国学会の特徴が見えてきましたので、理事長職を去るに臨んで書いておきましょう。
例えば、本学会には理事会・評議員会とは別に「学術専門委員会」があります。これが言わば本学会の中枢的機構であり、学会報の編集や学会賞の詮衡に当ったりしています(会場は主として斯文会・東京の湯島聖堂)。この組織は他学会には見えない特色のようです。
一方、他の諸学会は、研究発表に先立って内容を査読したり、発表人数が多いので減らしたりする努力をしています。仏教学関係では、年長者が進んで発表する傾向があります。それに較べると、本学会は研究発表の人数を確保するのに、毎年事務局が苦労するのが現況です。
本学会が良い研究発表の多い学会として知られるようになることを、願っております。日本学術会議での私見に拠りますと、学会活動の多寡が学会自体への科研費の配分にも大きく関係して来るようです。

本学会は会員数の増大につれて、事務局の苦労も増大していました。とりわけ今期は会則の新旧移行の時と重なったので、事務は繁雑を極めました(そこで、「会報」記事は事務局に一任し、余白を理事長の「外史」で綴るように敢えてして来ました)

平成11年(1999年)4月前後から新会則への移行措置は始まりましたが、新会則に拠る新旧移行を平成13年(2001年)春に見事にやり遂げ、新体制が魔事無く出発するまでに準備された早稲田大学内の事務局(山辺進会員を中核とし、森由利亜、原克昭の三幹事と東洋哲学研究室の学生諸君)並びに内外の御関係の方々には、学会を代表して深甚の謝意を表したいと思います。一昨年、致命の大病に襲われた私が大過無く任期を満了できましたのも、ひとえに上記の方々のお蔭でありました。長い間の御協力、本当に有難うございました。
この平成13年(2001年)4月1日から、本学会は昭和24年(1949年)10月22日創立以来の機構を大幅に改め、新しい「会則」のもと、新理事長・新役員と共に新組織に移行します。

―― 古人道、承言須會宗、勿自立規矩(碧巌録 第二十七則) ――


彙 報

◎平成13・14年度役員について

◎「日本中国学会会則」第8条により外国人留学生の会員の方は、本年度より会費が5,000円となります。同封の振込用紙にてご確認ください。ご不明の点は、書面
もしくはFAX
にて学会事務局までお問い合わせください。

◎本年度の学術大会は、福岡大学が準備会を担当し、10月6日(土)7日(日)に開催されます。(大会準備会からの案内状が同封してあります。)

◎『学会報』第53集の編集担当校は、北海道大学(責任者は伊東倫厚会員)に委嘱されました。
第53集の〈学会消息〉欄の原稿は、記入責任者から北海道大学文学部中国哲学研究室(〒060-0810
札幌市北区北10条西7)宛にお送り下さい。資料は平成12年1月から12月までのものとします。

 『学会報』第53集の〈学界展望〉執筆校は以下の通りです。

哲 学  大東文化大学文学部中国文学研究室
代表:倉田 信靖 会員
(〒175-8571  東京都板橋区高島平1-9-1)

文 学  九州大学文学部中国文学研究室
代表:竹村 則行 会員
(〒812-0053  福岡市東区箱崎6-19-1)

語 学  明海大学外国語学部中国語学科
代表:竹田 晃 会員
(〒279-8550  千葉県浦安市明海8)

 〈学界展望〉は、会員各位の自己申告に基づいて整理されますので、未申告の会員は4月末までに上記の執筆校に直接お送りください。郵送費は各自ご負担願います。なお、申告が無い場合は、収載漏れとなることがありますのでご注意下さい。また、研究論文目録として掲載不適当と思われるものは、執筆担当校の判断で割愛されることもあります。

訃    報

 昨年度会報第2号発行以後、次の会員が逝去されました。
謹んでご冥福をお祈り申し上げます。(敬称略)

内田 道夫(関東)
杉山 太郎(関東)
池田 末利(中国四国)

◎会費納入について 会費未納の方には振替用紙を同封致しますので、至急ご送金願います。なお、数年にわたって未納の方は特にご注意願います。4年にわたって滞納されますと除名となります。
(郵便振替口座:00160-9-89927)

◎『学会報』送付停止について
前年度会費未納の(第52集の場合は平成11年度会費)方には『学会報』を送付致しません。会費納入が確認され次第、送付いたします。また、納入の際には、振込用紙通
信欄に未送付の『学会報』の号数をご注記ください。

◎新入会員の紹介について
学会への入会は、定例理事会(5月・10月に開催)において審査・仮承認を経た後、本年10月開催の評議員会にて正式決定され、併せて初年度の会費納入を待って会員として承認されます。また、入会資格は、現在、大学・研究機関等で中国に関係する研究に従事する者、あるいは中国の哲学・文学・語学及 び中国に直接関連する諸領域を専攻する大学院の学生及びその修了者・単位
取得退学者、とされています。
この基準に合致しない入会希望者を特に紹介される場合は、研究歴及び研究業績についてできる限り具体的な紹介状を添付してくださるようお願いいたします。必要に応じてさらに審査前に事務局から照会することもあります。
なお、外国人留学生会員は、正規の大学院修士課程及び博士課程の学生を対象としており、研究生は対象外となります。大学院課程修了または帰国等の理由で資格変更される場合は、速やかに事務局まで届け出るよう助言の労をお取りください。

◎住所変更について
住所・所属機関等の変更は速やかにご通知ください。通知は書面もしくはFAXにてお願いいたします。
電話および会費振込用紙でのお届けはご遠慮ください。